今週の風の詩
第3974号 バッグのなかのぬいぐるみ(2025.4.13)
バッグのなかのぬいぐるみ
柚月今日子(ペンネーム)
ゴールデンウィークに新幹線に乗った。大型連休真っただ中の午後3時、東京行きの指定席は満席だった。
すぐ前の二人掛けの席には、30代前半くらいのご夫婦が3歳くらいの双子の女の子を連れて乗っている。私の真正面の席にお母さんと一緒に乗っている子はおとなしく座っている様子だったけれど、斜め前のお父さんの膝に乗っている子はぐずっていた。しばらくすると泣き出してしまってなかなか泣き止まない。なかなか大きな泣き声だ。
私はバッグからおもむろに小さなパンダのぬいぐるみを取りだし、前の座席の背もたれの上からパンダの黒い耳と白い頭をちらっと覗かせた。そうしてぬいぐるみの頭を左右に揺らして少しずつ上に動かしていくと、女の子がピタリと泣き止んだ。びっくりしたような表情でパンダをじっとみつめていたかと思うとにっこりと笑顔を見せ、右手を伸ばしてパンダをぎゅっとつかみ……………なんてことが起こればいいなと思う。いつも思う。
けれど私のバッグにパンダのぬいぐるみは入っていない。仮に入っていたとしても、いざとなったら何もしないだろう。余計に泣かせてしまうかもしれない、親御さんに睨まれるかもしれない……そんなあれこれを考えて、結果何もできないだろう。
新幹線の女の子は、結局1時間近く泣き続けていた。バッグのなかにぬいぐるみがあったなら…、と思ってしまう。
いつの日か、バッグにしのばせておいた小さなパンダのぬいぐるみをおもむろに取りだしてみたい。大泣きしていた子どもがにっこりと笑ってくれる笑顔を見てみたい。
すぐ前の二人掛けの席には、30代前半くらいのご夫婦が3歳くらいの双子の女の子を連れて乗っている。私の真正面の席にお母さんと一緒に乗っている子はおとなしく座っている様子だったけれど、斜め前のお父さんの膝に乗っている子はぐずっていた。しばらくすると泣き出してしまってなかなか泣き止まない。なかなか大きな泣き声だ。
私はバッグからおもむろに小さなパンダのぬいぐるみを取りだし、前の座席の背もたれの上からパンダの黒い耳と白い頭をちらっと覗かせた。そうしてぬいぐるみの頭を左右に揺らして少しずつ上に動かしていくと、女の子がピタリと泣き止んだ。びっくりしたような表情でパンダをじっとみつめていたかと思うとにっこりと笑顔を見せ、右手を伸ばしてパンダをぎゅっとつかみ……………なんてことが起こればいいなと思う。いつも思う。
けれど私のバッグにパンダのぬいぐるみは入っていない。仮に入っていたとしても、いざとなったら何もしないだろう。余計に泣かせてしまうかもしれない、親御さんに睨まれるかもしれない……そんなあれこれを考えて、結果何もできないだろう。
新幹線の女の子は、結局1時間近く泣き続けていた。バッグのなかにぬいぐるみがあったなら…、と思ってしまう。
いつの日か、バッグにしのばせておいた小さなパンダのぬいぐるみをおもむろに取りだしてみたい。大泣きしていた子どもがにっこりと笑ってくれる笑顔を見てみたい。