今週の風の詩
第3975号 森の鈴蘭(2025.4.20)
森の鈴蘭
植生管理工見習い(ペンネーム)
森の再生活動をしています。
ある日、地元中学校の教員から「社会学習の一環として、生徒のインタビューに協力してもらえないか。」と電話がありました。
待ち合わせ場所には、小柄でほっそりとした鈴蘭を思られる清楚な佇まいの少女がいました。
挨拶をした後に「なぜ、この活動に興味を持ったの?」と聞いたら「自然の中にいるのが好きなんです。」と答えてくれました。質問したのは、先生から事前に、他のクラスメイトは五、六人のグループになって、資料館や役場などをインタビュー対象に選んでいるのに、彼女だけが森に行きたい、一人でも行きたい、と言っていたと聞いていたからです。
「ご両親も自然が好きなのかな?」と聞いたら「いえ、どちらも自然には全く興味がないんです。」と笑いました。続けて「父は、単身赴任で九州にいたのですが、母が病気になったので、こちらに戻ってきたんです。」と言いました。頷いて聞いていたら「癌なんです。」と。「そう。お見舞いとかお手伝いとか大変だね」と言ったところ、「私、嬉しいんです。家族三人で暮らせることが」と笑顔に。ここ数年、お父さんは九州、お母さんは病院、自分はおばあちゃんの家にいたそうです。
インタビューの後に「作業してみる?」とノコギリを渡したところ、彼女は、それを使って竹を切り「お父さんへのお土産にします。」とコップに仕上げました。木蔦を巻くとリースになるよ、言ったら、早速作り「お母さんにもお土産ができた。」と嬉しそうにリュックにいれました。
帰り道で「将来の夢とかあるの?」と聞いたら「はい、普通のOLです。」と返事。「はは、普通がいいんだね」と言うと「はい、普通がいいんです。風通の家族を作りたいんです。」と答えてくれました。
帰路に立つ彼女の背中は、背筋が伸びて、まっすぐ前を向いていました。私も思わず背筋を伸ばし、息を大きく吸って、ゆっくり吐きました。