今週の風の詩
第3982号 お父さんの涙(2025.6.8)
お父さんの涙
望月さみ(ペンネーム)
お父さんは器用な手を持っているひと
トラクターを自在に操り
農作物を懸命に育み
私が知らない頃には絵を描き
私が気づいた頃には木を彫っていた
朝から晩まで黙々と
畑に木に命を宿し続けたお父さん
皮肉にも老いた先には
まだらな光の靄のなかに放り込まれてしまった
お父さんの器用なその手はもう
お母さんの手を握りしめるしかほかない
台所の音をむこうにしながら
言葉をさがしひろいぽろぽろこぼす想いは
「おとうさん、なんもできなくなっちゃったよ」と
ちいさくちいさくふるえ涙ぐむのだ
そんなことはないよと
自分でトイレに行ったりお風呂に入ったり
まだまだできることあるじゃないと
愚鈍な私はそれしか言えなかった
季節が彩づいたらまた会いにくるよ
浅黒いニカッとした笑顔で迎えてよ
穏やかな速度で話しながら
お母さんに見つからないように
ふたりでちいさくちいさく泣こうよ
トラクターを自在に操り
農作物を懸命に育み
私が知らない頃には絵を描き
私が気づいた頃には木を彫っていた
朝から晩まで黙々と
畑に木に命を宿し続けたお父さん
皮肉にも老いた先には
まだらな光の靄のなかに放り込まれてしまった
お父さんの器用なその手はもう
お母さんの手を握りしめるしかほかない
台所の音をむこうにしながら
言葉をさがしひろいぽろぽろこぼす想いは
「おとうさん、なんもできなくなっちゃったよ」と
ちいさくちいさくふるえ涙ぐむのだ
そんなことはないよと
自分でトイレに行ったりお風呂に入ったり
まだまだできることあるじゃないと
愚鈍な私はそれしか言えなかった
季節が彩づいたらまた会いにくるよ
浅黒いニカッとした笑顔で迎えてよ
穏やかな速度で話しながら
お母さんに見つからないように
ふたりでちいさくちいさく泣こうよ