今週の風の詩
第3983号 老犬との穏やかな時間(2025.6.15)
老犬との穏やかな時間
山本美和
私の愛犬は12歳になりました。子犬の頃は毎朝私より先に起きて、しっぽを振りながら元気に散歩をせがんでいましたが、最近はベッドからのそのそと起き上がる姿に年齢を感じるようになりました。以前はリードを持つと飛び跳ねて喜んでいたのに、今ではこちらを見上げて「あまり遠くには行きたくないよ」という顔をすることもあります。
ある日の夕方、いつものように散歩に出かけたのですが、途中で愛犬が突然立ち止まりました。周りを見ると、近所の公園の花壇に咲く小さな花をじっと見つめているようでした。しばらくその場で動かないので、私も立ち止まって愛犬の視線を追いました。普段なら気にも留めないような花が、なぜかその時は私にもとても美しく見えました。愛犬が教えてくれた、小さなものに目を向ける大切さ。その瞬間、心がじんわりと温かくなりました。
帰り道、愛犬の足取りは少しだけ軽やかでした。家に帰ると、ベッドに戻って深い息をついて眠り始めました。その穏やかな寝顔を見ながら、彼と過ごせるこの一瞬一瞬をもっと大切にしたいと思いました。小さな花を一緒に見つめたあの時間が、心の中で優しく輝いています。