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今週の風の詩

第4006号 ささやかな恩返しを(2025.11.23)

ささやかな恩返しを
ちなみ(ペンネーム)

インフルエンザの予防接種を終え、クリニックを出たところで上品な老婦人にお会いした。エントランス近くの段差を上がるのに苦労されているようだった。老婦人は、私が以前住んでいたマンションでお隣に住んでおられた方だ。4年ほどお顔を見ないうちに杖をついて歩くようになられたらしい。

「こんにちは! お久しぶりです」。私は声をかけて、老婦人が段差を上がるお手伝いをした。左手を握り、背中を支える。

「あらまあ、久しぶりねえ。双子ちゃん、元気?」

老婦人は、私とその家族を憶えていらした。お隣に住んでいた当時、私は双子の赤ん坊を育てていた。よく泣く子たちだったから、近所迷惑になることもあったかもしれない。それを気に病んで、私自身も育児のなかで消耗していった。そんなときに優しく声をかけてくれていたのが老婦人だった。

お会いすれば「まあ、かわいい赤ちゃんたち。元気に育ってね。ママさんも頑張ってね」と語りかけてくださった。ご自身の育児経験をお話ししてくれ、疲れきった私を励ましてくださることもあった。

「うちの双子ももう小学生になりました。元気いっぱいですよ!」

感謝をこめて伝えると、老婦人はにっこり笑って「元気なのがいちばんね。ありがとうね」とおっしゃってクリニックへ入っていかれた。私も手を振って見送った。

孤独を感じながら双子育児に奮闘していたあの頃、老婦人の言葉は私の心を救ってくれた。日中は赤ん坊と母親だけの空間で息がつまる暮らしをしていた私にとって、老婦人との関わりは癒しでもあった。だから、段差を上がるのくらい、いくらでもお手伝いするし、老婦人にはいつまでもお元気でいてほしい。そして私も、頑張るママさんを見かけたら押しつけがましくない優しさを渡せる人になりたい。

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