今週の風の詩
第4019号 サボテンと私(2026.2.22)
サボテンと私
石橋由貴
少し前に私はサボテンを育て始めた。花屋の店先に並ぶたくさんの種類のサボテンから悩んだ末に、お気に入りを家に迎え入れた。丸っこい形にチクチクした棘が生えているのが、小さいながらに精一杯強がろうとしているように感じて、なんとも愛おしく健気だった。お世話は1ヶ月に1回の水やり、時々の日光浴をさせるだけ。
せわしない日常の中で、手軽に緑で癒されたい私にサボテンはぴったりだと思った。しかし別れは突然にやってきたのであった。ある日ふとサボテンに目をやると、茶色く枯れてしまったことに気付いた。砂漠でも生きられるほど生命力が強く「枯れるばずがないだろう。」とたかを括っていた分、枯れた時はとてもショックだった。
早速花屋に行き、二代目のサボテンを買った。「今度は枯らさないぞ。」とお世話と手入れの仕方を花屋さんに熱心に尋ねた。親身になって答えてくれたその花屋さんに意外なことを言われたのだった。「サボテンって手がかからない分、育てるのが難しいんですよ。」確かに畑の野菜や花瓶の草花は、葉がしおれるといった分かり易い形で異変を知らせてくれる。一方、サボテンは静かに耐え忍び、自らの生命の危機すらも内面に押し込んでいた。
「手がかからないほど育てにくい」そんな逆説的な説明に、思わず納得してしまった。
そしてふと「私もサボテンみたい」と思った。サボテンの棘のような心の鎧で日々のプレッシャーやストレスから身を守ることに必死で、自分の心のSOSに気付かないふりをしているのではないかーそう思うとサボテンにより一層親近感を覚えた。私に癒しを与えてくれるサボテンと、サボテンをお世話する私。「この東京砂漠で、お互い支え合って生きていこうな。」なんてワンルームの窓際で、サボテンに話かけてみる。
サボテンには水を、心には潤いを。




