今週の風の詩
第4021号 わたしの帰る場所(2026.3.8)
わたしの帰る場所
アップルパイ(ペンネーム)
ひとり暮らしをするために、もうすぐ慣れ親しんだ実家を離れる。
自由に溢れた自分だけの空間づくりを想像しては、心が踊った。
手に入れる自由の代わりに、手放すものもある。
母のおいしい手料理。
父が運転する車の後部座席から見えた景色。
撫でると柔らかい妹の長い髪。
失うことを意識して初めてそれら全てが輝いて見えては、心の隅に冷たい風が吹き込んだ。
ヘトヘトに疲れて玄関の扉を開いても「おかえり」が聞こえなくなることに、わたしは静かに怯えている。
愚か者のわたしは残りの時間で、精一杯それらの幸せを噛み締めるのだ。
母の手料理を「おいしい」と声に出しながら食べ、
自室よりも居間で過ごす時間を増やし、
久しぶりの家族旅行に行きたいとせがむ。
「すぐにまた戻ってきたりしてね」と母が目を細めて笑う。
温かい眼差しの奥に宿る寂しさに、わたしは気付かないふりをする。
わたしには帰る場所がある。
それはわたしの身体が何処にあろうと、わたしの人生を支えてくれる御守りだ。
自由に溢れた自分だけの空間づくりを想像しては、心が踊った。
手に入れる自由の代わりに、手放すものもある。
母のおいしい手料理。
父が運転する車の後部座席から見えた景色。
撫でると柔らかい妹の長い髪。
失うことを意識して初めてそれら全てが輝いて見えては、心の隅に冷たい風が吹き込んだ。
ヘトヘトに疲れて玄関の扉を開いても「おかえり」が聞こえなくなることに、わたしは静かに怯えている。
愚か者のわたしは残りの時間で、精一杯それらの幸せを噛み締めるのだ。
母の手料理を「おいしい」と声に出しながら食べ、
自室よりも居間で過ごす時間を増やし、
久しぶりの家族旅行に行きたいとせがむ。
「すぐにまた戻ってきたりしてね」と母が目を細めて笑う。
温かい眼差しの奥に宿る寂しさに、わたしは気付かないふりをする。
わたしには帰る場所がある。
それはわたしの身体が何処にあろうと、わたしの人生を支えてくれる御守りだ。




