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今週の風の詩

第4026号 百葉箱(2026.4.12)

百葉箱

ポンちゃんと明景美ちゃん(ペンネーム)


 校庭の片隅に立っている白い建物が気になっていた。神秘的にそびえ立つその建物のついて尋ねてみると忙しかったのか先生に「大切なものが入っている」とだけ、笑顔でかわされてしまったのが事の始まりである。芝生が敷かれた小高い丘に周囲をロープで守られたその建物を当時小学校に入学したての私は「これは神様の家に違いない」と結論付けたのである。それからというもの事あるごとにその場で願い事をした。漢字テストで百点とれますように、運動会でリレーの選手に選ばれますように、時には喧嘩した友達との仲直りまで、純粋な子供の願いは不思議なまでに次々とかなえられ、いつしか私の頼れる存在になっていった。しかし、その日は突然やってきた。真相を突き止めることなく三年生になったある日のこと、放課後の校庭で、新任の先生があの神様の扉を開けているところに出くわしてしまう。覗きこんでいると中からは神様ではなく理科の実験で使うような機材が次から次へと姿を見せたのである。
そう、それは百葉箱。その瞬間、長年の勘違いに気づいた私はいつも誰もいないところでそっと手を合せていたことに安堵した。ぜったいに誰にも見られてないはずだと。
 しかし二十年後のこと、小学校の記念式典に出席した私は百葉箱の前で声を掛けられた。声の主は男の子を連れた同級生である。この場所で私が手を合せていたこと、それを真似て彼女は受験や安産祈願までもここにお参りに来たということを話し始めた。冷静になって状況を理解すると、彼女の勘違いは今も続いている。だが、今も大切な心のよりどころであることには間違いはない。私はただこっちを真っ直ぐな目で見つめる男の子に笑いかけた。「ねえ、君、小学校に入学して百葉箱の意味を知ったその時はあとをよろしく」
 それから小学校は移転した。そして現在、全国的に百葉箱は消滅しつつあると聞く。

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