今週の風の詩
第4042号 あの日携帯電話を届けてくれた人へ(2026.8.2)
あの日携帯電話を届けてくれた人へ
飲み会でいい気分になった夜更けの帰り道、あと少しで家、というところで転んでしまった。酔っていたせいでズベッと両膝をついてしまって、とても痛かった。楽しかった気分は急転直下、「痛い、痛い・・・」と言いながら起き上がり、半ベソで膝をさすりながら家に帰った。
帰って少し落ち着いたところではたと気づいた。携帯電話が、ない!
あわてて荷物中を探るが、ない。記憶を辿ると、電車に乗っている時まではあったので、いつも入れていた上着のポケットから、転んだ拍子に落ちてしまったのに違いない。
再び半ベソをかきながら、さっき転んだ場所に行ってみるが、やはりない。30分も経っていないのに。
酔いはすっかり覚めていた。ダメもとで交番へ行ってみることにした。
「携帯電話を落としてしまったんですけど・・・」涙目で伝え、警察官に促されるまま書類に、携帯電話の色、メーカーなど特徴を記入していると、若い警察官が奥の部屋から、「これですかね?」と差し出したのは、まさに私の携帯電話だった。
「それです!」と力が抜け、また涙がじわっと出た。まるで池の妖精が「あなたが落としたのはこの斧ですか?」と金の斧を差し出してくれるおとぎ話のようだった。
書類に受け取りのサインをして、交番を出た。携帯電話を盗まれて転売されるなど物騒なニュースが多いので、絶対見つからないと思っていた。こんな夜更けに、わざわざ交番まで届けてくれた誰かに、感謝の気持ちでいっぱいだった。拾ってくれた人に、どうか良いことが起こりますように。祈りながら、私も絶対誰かにいいことで返そう、と痛む膝で誓った。




