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今週の風の詩

第4046号 夏休みの絵日記(2026.8.30)

夏休みの絵日記
いとうゆう(ペンネーム)


小学低学年の頃、九州の佐世保に父の転勤で2年間住んだことがある。社宅だったアパートは山の中腹にあり、4階のベランダからは米軍基地である軍港と、その先の海と島々が眺められた。ベランダからシャボン玉を飛ばすと、ふもとの街を超えて海の向こうまで飛んでいくような気がした。父も母もまだ若く、子供だった自分を含め毎日の坂の上り下りを少しも苦に感じていなかった。
3年前に亡くなった母に、人生で一番良かった時期はいつかと聞いたことがある。「佐世保にいた頃かな」と母は答えたがその理由は聞きそびれたままだった。一周忌が過ぎた頃、姉から母がずっと保管していたという紙袋を受け取った。そこには、私の学生時代の通知表やらアルバムとともに小学2年生のときに描いた「夏休みの絵日記」が入っていた。
開いてみると、クレヨンの匂いとともに、家族で過ごした佐世保でのひと夏がよみがえってきた。虫取り網を持って山を歩く母と私、初めての肝試しで「ぎゃー」と叫んでいる私、デパートに入ってクーラーの涼しさに感動している母と姉と私、海で泳ぐ家族と私、花火をしている家族と私、墓参りをしている家族と私・・・その頃の自分たち家族を映した写真は数えるほどしか残っていないけれど、小学2年生だった自分の「夏休みの絵日記」の幼くつたない絵と文章が、佐世保で過ごした家族の日々の記録を確かな存在として伝えているように思えた。母はこの「絵日記」を家族の思い出を語るものとして捨てられずにいたのだろう。そして時々開いて懐かしく見ていたのかもしれない。
母が「佐世保にいた頃がよかった」と言った理由がわかるように思った。あの頃、ベランダから飽かず眺めた佐世保の情景がなつかしく思い出された。

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