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今週の風の詩

第4048号 あなたを思い出す(2026.9.13)

あなたを思い出す
順(ペンネーム)


肉親や親しかった人々との懐かしい想い出は宝物だ。
 けれど案外私たちは行きずりの人やごく淡い縁の人をさえ、折に触れて思い出していることはないだろうか。
 夏休み、早朝ラジオ体操の広場に駆けていく小学生にすれ違えば、寝坊した私のカードにも内緒でハンコを押してくれたお下げ髪の上級生が今も微笑みかける。
 昭和を回顧する番組の、タラップから降り立つビートルズの映像を見るたび、今も一人の女子高生が私の横に小躍りして寄り添う。
 ポール結婚のニュースで寝込んで学校を休み、翌朝泣き腫らした目で登校した同級生。同級生の一人というだけの間柄だったけれど、彼女の一途さが可愛くて眩しかった。
 妊娠二ヶ月頃だった私にバスで席を譲ってくれた、小さな子ども連れのお母さん。外見はまだ全く妊婦とわからない時期なのに「お腹に赤ちゃんがいるのよ、代わって上げましょうね」とお子さんにそっと言い聞かせて。
 込み合うバスで私、不安げだった? お腹を庇う動きをした? ……不思議だったけれど、お子さんもニコニコ顔だったこともあり、ありがたく甘えた。もし間違っていたらと躊躇わない、気付かぬ振りもできただろうその人の勇気と優しさを忘れない。女性から女性へ、母から母となるものへの、なんと心強い励ましだったか。思えば私も妊婦さんと接するとき、あの笑顔が無意識に乗り移っている。
 浅い縁の、なのに忘れ得ぬ人々はこうして不意に、生きいきと私の中に立ち現れ、生涯私を温めてくれる。そしてそのことを夢にも知らないだろう。
 それなら逆に、思いがけない人たちが、何かのきっかけで私を思い出すことがあるかもしれない。
 バスの女性の素晴らしさに及ばなくても、願わくはそのとき、誰かの日常をふわりと微笑ますことができたらとても嬉しい。

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