今週の風の詩
第3902号 ピアノ(2023.11.26)
ピアノ
記代子(ペンネーム)
子供の頃、10年くらい習っていたけれど、ピアノは全く上手くならなかった。
家に先生が来てくれていたから、レッスン前には母が丁寧にピアノを拭いていたのを思い出す。
大切にしていたのだろう。
20代半ばでその家を出るまで、弾き手はいないのにピアノはずっとそこにあった。
引越しを期に手放した時も、寂しいとか、もっと弾きたかったなぁとか、思いもしなかった。
不思議なものだ。
今日、我が家のピアノが旅立った。
夫の実家から譲り受け、子供たちが弾いたピアノ。
自分が弾いたピアノには思い入れがなかったのに、このピアノには未練たっぷり。
私は「ジャンバラヤ」と「聖者の行進」を、息子は小学生時代に発表会で弾いた曲を最後に弾いて、お別れをした。
改めて見ると、艶のある茶色が美しい、木製の温かみあるアップライト。
20年と少し、共に暮らした。
もっと弾いてあげればよかった。
おそらくこのピアノを一番大切にしていたのは、夫の母だろう。
私の母があのピアノを大切にしてくれたように。
ありがとう。
旅立ちの日が、気持ちよく晴れてよかった。運搬人の青年が、礼儀正しい感じの
いい子で救われた。
こんどは、もっとたくさん弾いてくれる人の元に行くんだよ。
ありがとう、ピアノさん。
指で奏でる喜びを。
音楽のある日々を。