今週の風の詩
第3906号 お雑煮(2023.12.24)
お雑煮
にのまる(ペンネーム)
丸いお餅にきんぴらが載ったようなお雑煮。なんだ、こりゃ?
東京の大学で夫と出会い結婚し、帰省先の岡山で初めて迎えたお正月。
義母のお雑煮作りの段取りにいちいち驚きながら、初めて見る金時人参や牛蒡を千切りにして湯がく。ほうれん草も湯がく。丸餅を沸騰した湯で煮込み、お椀に入れて、昆布と鰹でだしをとったつゆをかけ、湯がいた野菜と一緒にかしわ
(鶏) や蒲鉾を載せていただく。
さらに驚いたのは、義父のお椀に載せられた鰤の照り焼きだ。大きくなるにつれ次々と名前が変わる出世魚らしいが、見るからに生臭そうで私は遠慮した。
東京生まれで東京育ちの私は、多少の違いはあれ、どこの家もお正月のお雑煮は四角いお餅にみつばの載ったすまし汁と思い込んでいた。
新婚当時は煮物のようなお雑煮に馴染めず、焼き餅入りのすっきりとしたお雑煮を懐かしがっていたが、今は当たり前のように、岡山風のお雑煮を毎年作っている。
丸餅はのど越しがよく、根菜たっぷりのお雑煮は腹持ちもいいから正月太りもない、と勝手なものである。
介護施設で元旦を迎えた90代の義母は、今年は雑煮が出んかった、と不満気だった。喉に詰まらせたらいけんからね、と夫に慰められていたが、お雑煮が食べられないお正月は、寂しいだろう。
60代の私もそれなりに歳は感じているが、丈夫な歯だけは全部揃っている。
食わず嫌いをしない好奇心と、食べたいものが食べられる幸せは、最期まで大切にとっておきたい。