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今週の風の詩

第3905号 思いやり(2023.12.17)

思いやり
スィートバジル(ペンネーム)

電話が鳴りました。

「あの、突然のお電話をしてすみません」

「はい、何か御用ですか?」

私は無意識に少し声のトーンを落として不愛想に早く切りたい思いで受話器の向こうの女性へ返事をしました。

というのは数時間前に怪しい勧誘のような電話を受け、不愉快な気分がまだ残っていたからです。

「私の夫はフランス人で…」

フランス人?益々怪しい

「夫のお母さんがあなた方のことを探しています」

私は「あっ、もしかして?」と思い出しました。

30年前にヨットで行ったフランス、セテという港町へ立ち寄りました。たまたまヨットを停めた桟橋の前に小さなレストランがありました。私は市場で買った牡蠣の開け方が分からず、桟橋の上で金槌で叩いて割っていました。それを見ていたレストランの女性がノンノンと来てくれて牡蠣の正しい開け方を丁寧に教えてくれました。それから彼女は私たち夫婦とまだ2歳の娘とを何度かレストランでご馳走してくれました。それから年月が過ぎ、すっかり30年も経っていました。

「フランスのお母さんがあなたたちの話を今でもしています。今度、日本へ来るのでサプライズで会ってほしい」という電話でした。私たち夫婦はあの桟橋の小さなレストランの彼女だとわかりました。 それから 息子さん夫婦と何度もメールのやり取りをして彼女を驚かせることを計画しました。と言ってもお互いに顔も知りません。なのでメールで写真を送り合いました。そして夫と私は新大阪の改札口から出てくる彼女へ近寄り、そっと小さな花束を渡しました。彼女のキョトンとした顔が、みるみる驚きへと変わり、涙を流して抱き合いました。サプライズは大成功しました。

私たちはフランス語がわかりません。彼女は日本語がわかりません。息子さん夫婦の通訳で多くの会話ができました。彼女は30年前セテで私たちのことを紹介された新聞記事と写真と、夫が出した手紙とを持ち歩いていました。あの時、漁船やクルーザーが停泊する港に紛れて、小さな生活感のあるヨットが日本から来たことに驚かれ、しかも小さな子供いるということで、とても心配して下さっていたようです。

息子さんは当時まだ15歳でお母さんはレストランでの仕事は忙しかったけれど、働くのが好き、人が好き、人と話すのが好きだったそうです。お母さんが私たちのことをいつも話していたそうです。国を越え、言葉を越え、時間を越えての思っていて下さったことに感激のあまり涙が出ました。


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