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今週の風の詩

第3915号 冬の片手袋(2024.02.25)

冬の片手袋
石井公二

寒い日の朝。家のすぐ横に立っている電柱に、透明のビニール袋が吊り下げられていた。中にはオシャレな手袋が片方だけ入っている。その電柱はゴミ集積所になっており、その日はちょうど回収日。それで分かった。恐らく電柱の下に片手袋が落ちていて、それを拾った人がゴミと一緒に捨てられないよう、わざわざ袋を用意してぶら下げたのだろう。

冬になると、こういった事情で生まれた片手袋をあちこちで見かける。ガードレールの支柱に挿されたもの、金網に差し込まれたもの、植込みの上に置かれたもの。「東京は人間関係が希薄で、人と人との繋がりに乏しい」、と語る人は多い。しかし、そんな大都会では今日もまた、沢山の人達が見ず知らずの人が落とした片手袋を拾い上げ、目立つ場所に置いてあげている。

地球を救うほど大袈裟なものではないけれど、我々が確実に持ち合わせているささやかでさりげない優しさ。日々すれ違う自分とは何の関係もない人々とも、「片手袋を落とし、拾われ」といった思いがけないことで人生が交差している可能性。冬場の片手袋達は、様々な希望を可視化させる。

電柱に吊り下げられた片手袋を見かけた日の夜、激しい雨が降った。翌日の朝、同じ場所を通ってみると、ビニール袋がジッパー付きの袋に変わっていた。片手袋が雨に濡れないよう、さらなる気遣いが施されていたのである。

東京は本当に冷たい町だろうか?

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