今週の風の詩
第3916号 できることから始めよう(2024.03.03)
東京駅に向かう通勤時間の電車で、赤ちゃんを抱っこしたお母さんと、夏休みなのか小学校ぐらいの男の子が2人乗ってきた。電車は混んでいて席はない。
子供たちとお母さんは電車のドア入口付近の隅によりかかり、窓をみながら何やら話している。私も3人子供がいるため、座るより立っていた方が楽な時もあることは分かっていたが「もしよろしかったら、ここに座りませんか」とお母さんに声をかけた。
お母さんは笑みを浮かべて「ありがとうございます。でも大丈夫ですよ」と言って、席には座らなかった。その時だ。小学校ぐらいの息子さんが驚いたようにこう言ったのだ。
「優しい人だね、お母さん」と。
私はその一言が家に帰ったあとも心に残っていた。子供の純粋な表現にかわいらしさを覚えると同時に、当たり前の行為で子供にその言葉を言わせてしまう社会が悲しいなと思ったのだ。私も妊娠中に電車通勤を経験したが、誰も声をかけてはくれなかった。席を譲ってほしいという気持ちより、社会に気にされていない自分がいることに孤独を感じたのだ。ひと昔前までは日本人は当たり前に声掛けをしていたのではなかっただろうか。子供を持つお母さんに席を譲っただけで「優しい人だね」と子供を驚かせてしまう世の中ってなんだろうか。私は子供に危険性を教えるだけでなく、世の中には「優しい人」もたくさんいることを教える必要があるのではないかと思っている。大人が率先して日常生活の中で優しい心配りを意識するだけで、子供は「優しい世の中が当たり前になっていくと思うのだ。
「優しい人だね、お母さん」
あの男の子の声が今でも思い出される。
子供にとって優しい社会が当たり前だと思ってもらえるように…。
そして、優しい人がいる日本が当たり前だと思ってもらえるように…。
私が出来ることから始めていこう。