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今週の風の詩

第3920号 父の卒業(2024.3.31)

父の卒業
MAIKO(ペンネーム)

卒業。
と言っても、学校ではない。車からの卒業だ。
元々、今年の秋に卒業予定ではあった。
卒業前に、一緒にやりたいこと、行きたい場所はたくさんあったはずだ。
でも、思ったようにはいかなかった。
原因は結局わからなかったが、春先に急に元気がなくなり、動くことが億劫になった。
歩くのもスローになり、車の運転もできなくなった。
家族の誰もが、また運転することなく、車とはお別れかな、と思っていた。

しかし、父は違っていた。
いつ頃からか、少しずつ元気を取り戻し、毎日、近所に歩いて出かけていくようになった。
そしてある日、こんな一言を口にした。
「運転席に座ってみようと思う。それでもし行けそうだな、と思ったら、行ってみるよ」
しばらくして駐車場を見ると、父の車はいなかった。
何と、車と久しぶりの散歩に出かけたのだ。
あっという間の出来事だったけれど、父の車に対する強い思いはもちろん、
誰もが無理かも、と思ったことを自分の力で成し遂げたことに、
大きな拍手を送らずにはいられなかった。

何度かその後も、長い距離ではなかったけれども、ドライブに出かけることができた。いよいよお別れの日が決まると、丁寧に、何日もかけて、外も中もきれいにしていた。
最後のドライブの行き先は、車がやって来たディーラー。
「君はここから来て、長い間付き合ってくれたね。ありがとう」と言ってきたという。
卒業の日、家族全員で父の相棒を見送った。写真もたくさん撮った。
「悔いなし」
そう言って、父は家に入った。

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