今週の風の詩
第3921号 駐輪場のおじさん(2024.4.7)
駐輪場のおじさん
匿名
毎週土曜日は息子二人を連れて遊びに行くのが習慣だ。今年で長男は8歳、次男は6歳になる。
いつも駅前の駐輪場に自転車を止めて遊びに行く。その日も、私は使い古した電動のママチャリで、長男と次男は自分のぴかぴかした自転車で駐輪場にたどり着いた。
「右、空いてるよぉ」
混んでいることが多いその駐輪場に入ると、空いている場所を探す前におじさんが声をかけてくれた。ぺこりと会釈して息子たちを右のスペースへ誘導する。
二人とも空いたスペースに、自分で入れるんだとばかりに左右の自転車をかき分けかき分け、かちゃりとセットされる位置まで一生懸命に自転車を押し入れている。
私は二人の様子を見ていた。まだ小さな次男は特に、手伝おうかと思うほど悪戦苦闘していたが、そのまま見ていた。自分でやりたいというキラキラした瞳があった。苦労して入れられたなら大成功、入れられなくてもできるところまでできたら成功だ。困るまで見ていてやろう。
「二人とも、ずいぶん大きくなったよな」
気が付くと、駐輪場のおじさんが隣にいた。遠くを見るような微笑みを浮かべている。
「ええ」
口下手な私はそんな一言を漏らすのが精いっぱいだったが、おじさんの言葉を聞いたとき、ああ、ずっと私たち親子のことを見ていてくれたんだな、と初めて知った。
その瞬間、私の頭の中を、息子二人をママチャリのチャイルドシートに乗せてやってきてあくせくしながら二人を下ろして自転車を入れていたあの日、長男が自転車に乗り次男だけをチャイルドシートに乗せて来たあの日、言うことを聞かない息子たちに怒りながら駐輪場をあとにしたあの日、様々なかつての「あの日」がさっと駆け巡った。
なんだか泣きそうな気分だ。子育ては大変だ。でもやってきたんだな。
それは泣きそうだけど、何とも言えない優しい気分でもあった。
「いってらっしゃい」
いつものように、おじさんは私たちにそう言った。