今週の風の詩
第3939号 「海の幸」と「土と幸」(2024.8.11)
母が元気だった頃の話。母には、5人の子供と14人の孫がいた。そんな母を囲んで、沼津の実家には、毎年夏と冬に集まるのが習慣になっていた。用事で参加できない者を除いても、いつも15〜6人は集まった。そしてテーブルには海の幸が並んだ。その中心にあるのは、カニだった。カニは冬のイメージが強いが、夏にも食べられる。毛ガニ、花咲ガニ、ワタリガニ、そしてカナダ産のズワイガニなど。この日のために、沼津の市場から仕入れてくるのだ。実家は干物屋をやっていたので、比較的安く仕入れることができたのだ。
嵐のように現れて、嵐のように去って行く。後に残るのは、いつも山のようなカニの殻だった。そんな台風家族たちが、台風の目に入ったように、静かになる一瞬がある。カニを食べ始める瞬間だ。男3人兄弟は、しゃべるのを一切やめて、黙々と食べる。半年分のカニを、競うように食べる。食べ続ける。「ああ、食った、食った!」とお腹をたたく末の弟には、いつもスピードと量で負けていた。そんな男どものカニ食い競争を、やや冷たい目でみる妻と子供たち。でも母は、顔をカニのように赤くして、しわくちゃにして、いつも大笑いしていたな・・・。
月日が大きく流れて、我が家の3人のムスメも大人になった。上の二人は結婚して、家族を連れて、夏と冬に集まるようになった。私たち二人暮らしには、7〜8人は台風襲来だ。思い出の沼津に較べたら人数的には小型の台風だけど、ハリケーンのように元気な男の子もいる。トルネードのように躍る女の子もいる。そしてテーブルの中心に並ぶのは、妻が畑で育てた自前の野菜料理だ。農婦歴30年、100坪の畑で収穫できるのは、なす、トマト、キュウリ、ズッキーニ、ピーマン、カボチャ、トウモロコシ等々。黄色いスイカはデザートだ。
沼津が「海の幸」なら、佐倉の実家は「土の幸」だぞ。みんなよく食べる。食べてくれる。お土産は、もちろん野菜だ。「ごちそうさま〜」といって元気に帰って行く夏は、ごちそうサマ〜!と聞こえる。特に今年の夏は、3番目の娘がカレシを連れてくる予定だ。ちょっとまた大型になる。夏が待ち遠しいな。こんな夏の台風なら、大歓迎だ。